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仙台地方裁判所 昭和31年(行)13号 判決

原告 早坂安次

被告 宮城県知事

主文

被告が

一、別紙第三目録記載(一)の山林につき、所有者名宛人を菅沢与右衛門として昭和二十三年十一月一日発行の買収令書(宮城牧ち五九号)をもつてした買収処分。

二、同目録記載(二)ないし(四)の山林につき、所有者名宛人を早坂三蔵として同日発行の買収令書(宮城牧ち六〇号)をもつてした買収処分はいずれも無効であることを確認する。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項同旨並びに「被告が一、別紙第一目録記載の農地及び宅地につき、共有者名宛人を、菅沢与右衛門、早坂三蔵として昭和二十二年十二月十日発行の買収令書(宮城に四一九二号)をもつてした買収処分、二、同第二目録記載の農地及び宅地につき、共有名宛人を菅沢与右衛門、早坂三蔵として、同二十三年十月十日発行の買収令書(宮城ち三四九九号)をもつてした買収処分、三、同第四目録記載の建物につき、共有者名宛人を菅沢与右衛門、早川三蔵として、同二十五年七月十日発行の買収令書(宮城た八三三号)をもつてした買収処分、はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

「別紙各目録記載の不動産は、もと、原告の亡父早坂今朝蔵と、早坂栄太郎の亡父早坂三蔵(三蔵は今朝蔵の姉たみの長男)との共有であつたが、事情があつて今朝蔵の持分は菅沢与右衛門名義とされていたので、登記簿上、すべて三蔵、与右衛門の共有となつていた。

大正十四年十一月二十三日与右衛門の死亡により菅沢清作が昭和十九年十二月二十八日三蔵の死亡により栄太郎が、同二十一年十二月十九日今朝蔵の死亡により原告が、それぞれ家督相続人として前主の権利義務を承継した。従つて、前記不動産は原告と栄太郎の共有に帰した。

その後、栄太郎は、前記不動産を管理して来たが、昭和二十二年三月二十三日大沢村農地委員会に対し、右不動産の自作農創設特別措置法による買収方を申し出た。

右申出に基き、同農地委員会は、別紙第一、二、四目録記載の不動産については三蔵、与右衛門の共有名義、同第三目録記載(一)の山林については与右衛門の、同(二)ないし(四)の山林については三蔵の各単独所有名義で、同第一目録記載の農地及び宅地については昭和二十二年十一月十七日、同第二目録記載の農地及び宅地については同二十三年七月二十六日、同第三目録記載の山林については同年九月八日、同第四目録記載の建物については同二十五年六月二日、それぞれ買収計画を樹立した。(第三目録記載の山林は、登記簿上の地目は山林であつたが、原野として牧野買収計画がたてられた。)

その後所定の手続を経て、被告は、

一、別紙第一目録記載の農地及び宅地につき、三蔵、与右衛門を共有者名宛人とした昭和二十二年十二月十日発行の買収令書(宮城に四一九二号)を同二十三年二月一日栄太郎に交付し、

二、同第二目録記載の農地及び宅地につき、三蔵、与右衛門を共有者名宛人として同二十三年十月十日発行の買収令書(宮城ち三四九九号)を同年十二月二十日栄太郎に交付し、

三(1)  同第三目録記載(一)の山林につき、与右衛門を所有者名宛人とした同年十一月一日発行の買収令書(宮城牧ち五九号)

(2)  同目録記載(二)ないし(四)の山林につき、三蔵を所有者名宛人とした同日発行の買収令書(宮城ち六〇号)

をいずれも同月十日栄太郎に交付し、

四、同第四目録記載の建物につき、三蔵、与右衛門を共有者名宛人とした同二十五年七月十日発行の買収令書(宮城た八三三号)を同二十六年三月二十五日栄太郎に交付し、

それぞれ買収処分をし、その対価を清作及び栄太郎に対して交付した。

しかし、右各買収処分には次のような違法があるから、いずれも当然無効である。

第一、右のように各買収令書は、三蔵及び与右衛門を所有者名宛人、又は共有者名宛人としているが、与右衛門及び三蔵は前記のとおり各買収処分当時、既に死亡していたから、右各買収処分は、死者を相手方としてなされたものとして無効である。

第二、かりに、本件各買収処分が名宛人の相続人に対するものと解せられるにしても、

(一)  前述のように別紙各目録記載の不動産は、実質上は、かつては三蔵と今朝蔵の共有に属するものであり、買収当時は栄太郎と原告の共有であつて、与右衛門又は清作は何等の権利を有して居らず、このことは栄太郎が大沢村農地委員会に提出した買収計画樹立申請書(甲第五号証の一、二)にも記載してあり同委員会中には、清作が委員として加わつていたことから同委員会にも明白であつたにもかかわらず、同委員会の樹立した買収計画及びこれに基いてなされた被告の買収処分はこの事実を無視している。即ち、

(1)  別紙第一、二、四目録記載の不動産の買収処分は三蔵、与右衛門を共有者とし、同第三目録記載山林のうち(一)の山林の買収処分は与右衛門を所有者として行われて居り、いずれも権利者でない与右衛門を相手方とし、共有権利者である原告を相手としていないから、無効である。

仮りに、右別紙第一、二、四目録記載の不動産の買収処分の無効は与右衛門に対する部分に限られるとしても、三蔵に対する部分は、当時の権利者栄太郎から買収した上更にまた同人に売り渡したもので自作農創設特別措置法第一条の法意に照らして無効であり、結局、右買収処分は全体として無効である。

(2)  別紙第三目録記載(二)ないし(四)の山林の買収処分は、三蔵のみを相手方とし、真実の共有権利者である今朝蔵又は原告を除外して行われているから無効である。

仮りに、右山林が買収処分の名宛名義のとおり、三蔵相続人栄太郎の単独所有であるとしても、右山林は、栄太郎から買収して更にまた同人に売り渡されたもので、このような買収処分は自作農創設特別措置法第一条の法意に照らして無効である。

(二)  また別紙第一、二、四目録記載の不動産は、三蔵、与右衛門の共有名義、同第三目録(一)記載の山林は与右衛門の単独所有名義でそれぞれ買収されているにもかかわらず買収令書は、いずれも三蔵の相続人栄太郎にのみ交付されて居り、与右衛門の相続人清作には交付されていないから、その買収処分は無効である。

別紙第三目録記載(二)ないし(四)の山林は、三蔵の単独所有名義で買収され買収令書は同人の相続人栄太郎に交付されているが、真実の共有者である原告には交付されていないから、その買収処分は無効である。

第三、別紙第一、二目録記載の不動産中、宅地二百十六坪を除いた農地の部分の買収計画書には、自作農創設特別措置法のどの法条によつて買収するかの記載がないが、このような買収計画は根拠条文が全く不明であるから、無効という外なく、従つて、これに基く買収処分もまた無効である。

第四、別紙第三目録記載の不動産は、原野として牧野買収計画により買収されたものであるが、右は登記簿上、山林とされているのみならず、現況も立木の生立する純然たる山林であつて、いさゝかも牧野たる性格を有していないから、かような買収計画は全く無効という外なく、これに基いて行われた買収処分もまた無効である。

以上のような理由で、別紙各目録記載の不動産に対する被告の右買収処分は、いずれも無効であるから、その確認を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、

被告の主張事実に対し、「今朝蔵は仙台市八幡町百八十九番地に居住して居り、同人の死亡後、その家督相続人である原告も引続き同所に居住していることは認める。しかし、別紙各目録記載の不動産は実質上の共有者である三蔵、今朝蔵の間で協議の上分割することに契約されて居り分割の上は、今朝蔵の持分を原告の弟早坂喜代治において引き続き同人が宮城村において耕作に従事することが予定されていたが、三蔵及び栄太郎は今朝蔵及び原告の再三の請求にもかかわらず、分割協議に応じなかつたため、やむを得ず、本件買収までそのまゝになつていたものであつて、通常の不在地主の場合とは全く事情が異る。」と述べ、

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として「原告の主張事実中、別紙各目録記載の不動産が登記簿上、早坂三蔵、菅沢与右衛門の共有名義となつていたこと、大正十四年一月二十三日、与右衛門の死亡により清作が、昭和十九年十二月二十八日、三蔵の死亡により栄太郎が、同二十一年十二月十九日、今朝蔵の死亡により原告がそれぞれ家督相続人として、前主の権利義務を承継したこと、栄太郎から昭和二十二年三月二十三日、大沢村農地委員会に対し、右不動産につき自作農創設特別措置法による買収方の申出があつたこと、この申出に基き同委員会が右不動産につき、原告主張の日に、その主張のような買収計画を樹立し、その後所定の手続を経た上、被告が原告主張のような買収令書を、その主張の日、栄太郎に交付して買収処分を行つたこと、買収対価は栄太郎、清作に交付されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

別紙第一、二、四目録記載の不動産について栄太郎から、大沢村農地委員会に対し、同不動産が、三蔵、今朝蔵の共有であり、今朝蔵が仙台市在住の不在地主であることを理由として、買収方の申出あり、更に、登記簿上の共有者である与右衛門の相続人清作から保有反別を超えるものとして、自作農創設特別措置法第三条第五項第六号による買収の申出があつたので、同委員会は、結局、共有者全員から買収申出あつたものと認めて買収計画を樹立し、被告もこれに基いて買収処分を行つたのである。

別紙第三目録記載の山林も、同様に、栄太郎と清作から買収方の申出があり登記簿上は山林であつたが、現況は牧野だつたので、同法第四十条の二により同委員会において牧野買収計画を樹立し、これによつて被告が買収を行つたものである。

仮りに、本件不動産が、実質上三蔵、今朝蔵の共有であつたとしても、本件のように、登記簿上の権利者を対象とした買収処分は適法な異議、訴願、訴訟等により取り消されることがあるのはかくべつ、当然に無効ではない。別紙第三目録記載の各山林につき、三蔵又は与右衛門を単独所有者として買収したのは事務上の誤りによるものであつて、前同様、取消の事由にはなつても、無効の事由とはならないし、与右衛門名義でなされた同目録記載(一)の山林の買収は、三蔵の持分については原告に無効確認の利益もない。

また、今朝蔵は生前仙台市八幡町百八十九番地に居住して居り、同人の死後、原告も引続き、同所に居住しているから、たとい、別紙第一、二、四目録記載の不動産が三蔵と今朝蔵の共有であつたとしても、今朝蔵又はその相続人原告は不在地主として、持分の買収を免れなかつたのであつて、原告に無効確認の利益はない。少くとも、行政事件訴訟特例法第十一条を準用して原告の主張は認むべきでない。

本件買収令書は栄太郎のみに交付されたが、同人は、三蔵の相続人として且つ、与右衛門相続人清作の代理人として交付をうけたのであり、また、清作は栄太郎が交付をうけたことを認め買収対価を受領しているのであるから、本件買収処分は無効ではない。」と述べ、

立証〈省略〉

理由

第一、別紙各目録記載の不動産につき早坂栄太郎の買収申出に基き大沢村農地委員会が、原告主張の日時、その主張のような所有名義人に対しその主張のような買収計画を樹立し、所定の手続を経て、被告が原告主張のような内容の買収令書をその主張の日、栄太郎に交付して買収処分を行つたことは当事者間争いがない。

右不動産が、右買収当時、いずれも登記簿上、早坂三蔵、菅沢与右衛門の共有名義となつていたことは当事者間争いなく、成立に争いない甲第一ないし第三号証、第五号証の一、二及び証人早坂栄太郎、庄司又右衛門、早坂喜代治の各証言並びに原告本人尋問の結果によると、三蔵は、原告の亡父今朝蔵の姉たみの長男であつて本件不動産は、元来、実際は、三蔵と今朝蔵の共有であつたが、今朝蔵は仙台市に居住して薪炭商を営んでいたので、大正年間、本件不動産を同人名義にしておいて営業上の債務のため手離されるようなことがあつては困るから、財産保全のため同人の持分を、与右衛門名義にしておこうという親族会議の決議があつたため、登記面だけは三蔵、与右衛門の共有名義とされていたものであること、従つて与右衛門名義で登記されている持分は実際は今朝蔵のものであつて与右衛門は本件不動産について何ら実質的な権利を有しなかつたことを認めることができ、証人菅沢清作の証言、その他の証拠をもつては、右認定を左右するに足りない。そして、大正十四年十一月二十三日、与右衛門が死亡して清作が、昭和十九年十二月二十八日三蔵が死亡して栄太郎が同二十一年十二月十九日今朝蔵が死亡して原告がそれぞれ家督相続をし、前主の権利義務を承継したことは当事者間争いないから、本件不動産は、右買収計画樹立当時、実質上は、三蔵の相続人たる栄太郎と、今朝蔵の相続人たる原告の共有であつたことが明らかである。

第二、以下に、本件買収処分が無効であるか否かについて判断する。

一、先ず別紙第三目録記載の土地が牧野買収計画により買収されたことは当事者間争いないが、証人菅沢清作、庄司又右衛門、早坂喜代治、宮崎満夫及び原告本人の各供述を綜合すると、右土地の実際の面積は約二十町歩前後であり、本件買収当時、うち四、五反歩位には杉立木が、残りの部分には雑立木が一面に生立して居り、杉の樹令は二十年程度、雑木の樹令は二十年程度から五十年程度のものであつて、いずれも、二、三丈に達して居り、純然たる山林であつたこと、右山林中には原野の部分は殆んどなく従来も、採草地又は放牧地として利用されたことは一度もなかつたこと、現在はそのうち四反歩程度切りひらかれ、うち三反歩程は放牧地、一反歩程は採草地に利用されているが、これは昭和二十九年頃から栄太郎がその部分の地上の樹木を伐採して採草放牧に適するような状態にしたものであること、右牧野買収計画を樹立する際、大沢村農地委員会では同山林を実地調査せず、牧野として買収計画を樹立したものであることが認められ、証人早坂栄太郎の証言その他の証拠によつても右認定を左右することができない。

従つて、右土地は、本件買収計画及び買収処分当時、登記簿上山林と表示されていたばかりでなく、現況も純然たる山林で自作農創設特別措置法にいう「牧野」たる性格は全く有しなかつたことが明らかであるから、これを牧野として買収するための同法第四十条の二による買収計画、並びに買収処分は重大且つ明白な瑕疵があるものとして無効であるといわなければならない。

二、次に別紙第一、二、四目録記載の不動産に対する買収処分の効力についてのみ判断する。

(一)  先ず、右不動産に対する買収処分は、すでに死亡した三蔵及び与右衛門を共有者として同人等に対してなされたものであるから当然無効である旨の原告の主張について判断する。

前記のとおり、右不動産の買収処分は、いずれも三蔵及び与右衛門の共有名義でなされているが、与右衛門は大正十四年十一月二十三日、三蔵は昭和十九年十二月二十八日、それぞれ死亡しているから、右買収処分は死者を名宛人とするものとして瑕疵あることを免れないが、自作農創設特別措置法第十一条において、農地の所有者に対してなされた買収手続その他の行為は、その承継人に対しても効力を有すると規定している法意からみると、すでに死亡した者を名宛人として行われた買収処分であつても、実質的には相続人を相手方としたものと認められ且つ、このことを相続人において知つていた場合は、相続人に対するものとして有効と解すべきである。

本件においては、買収手続自体が右名宛人の一人たる三蔵の相続人栄太郎の買収の申出によつて開始されたことは前記のとおりであり、証人菅沢清作、宮崎満夫の証言によれば右名宛人たる与右衛門の相続人清作も、当時の大沢村農地委員会の委員であつた関係上、右の申出のあつたこと及び右買収計画の樹立されたことをよく知つているばかりでなく、計画樹立に当り、同委員会から同人の意向をたずねられて、自己の保有反別を超過する部分だから買収されても異存ない旨申し述べている事実が認められ、また栄太郎及び清作において右買収対価を受領していることは当事者間に争いないところである。このような経過をみれば、右買収計画及び買収処分は、三蔵及び与右衛門の相続人栄太郎及び清作を相手方として行われたものであり、且つ、このことは、栄太郎及び清作において充分承知していることが明らかである。

従つて、本件不動産に対する買収処分は、名宛人の相続人栄太郎及び清作に対するものとして有効であり、名宛人を三蔵及び与右衛門としたのは、単にその表示を誤つたにすぎないものと認められるから、この点に関する原告の右買収処分が無効であるとの主張は理由がない。

(二)  次に仮りに本件買収処分が、相続人に対するものとして有効であると解せられるにしても、権利者でない与右衛門を相手方としているから無効であるとの原告の主張について判断する。

買収計画及び買収処分の名宛人たる与右衛門が本件不動産につき(実質的な権利を有しないことは前認定のとおりであるから、右買収計画及び買収処分には、同人を名宛人とした点で違法があることは疑いない。しかし、所有権の存否は抽象的な権利関係の問題であるから必ずしもつねに外見上明白な事柄とは言い得ないのみならず、本件においては、登記名義が与右衛門にあることは前記のとおりであり、更に前記甲第五号証の一、二、証人早坂栄太郎、菅沢清作、宮崎満夫の証言によると、大沢村農地委員会に提出された栄太郎の買収計画樹立申請書(甲第号証の一、二)には、実際は三蔵、今朝蔵の共有である旨記載してあり、資料として両者間で共有関係を確認した和解調書(甲第二号証)の一部の写が添付されていたので、同委員会もこの点を調査したが、右和解からも相当年月を経て居る上、今朝蔵及び原告は全く耕作に従事して居らず、右不動産の納税名義人も三蔵、与右衛門両名であり、清作は、自分が共有権利者である旨申し述べるので、結局同委員会は登記簿どおり、三蔵相続人栄太郎と与右衛門相続人清作を共有者と認めて買収計画を樹立したものであることが認められる。

右のような事実関係にある本件においては、真実の権利者が与右衛門相続人清作ではなく、今朝蔵相続人原告であることは決して外見上明白であつたとは言えないから、与右衛門を名宛人とした右買収処分の瑕疵は、明白とは言い難い。従つて右買収処分は、瑕疵を持つているけれども当然無効とはいえないからこの点に関する原告の主張は採ることができない。

(三)  更に、右不動産に対する買収処分は、買収令書が栄太郎一人に交付され、共有名義人与右衛門の相続人清作に交付されていないから無効であるとの原告の主張について判断する。

前記のように、右不動産の買収処分が三蔵、与右衛門の共有名義でなされているにもかかわらず、買収令書は、三蔵の相続人栄太郎にのみ交付され、与右衛門の相続人清作には交付されなかつたことは、原告主張のとおりであるが、買収対価は清作においても受領していることは当事者間争いないところであり証人早坂栄太郎、菅沢清作の証言によれば、右対価は一括して栄太郎に支払われ、うち半額が栄太郎から清作に交付されたものであり、その際栄太郎は本件買収令書も清作に見せたが、清作は別に異議もなく右対価を受領したものであることをうかがうことができる。

従つて本件買収処分には、買収令書が共有者の一人たる、清作に対して交付されなかつた瑕疵はあるが、清作は栄太郎から令書を見せられ、且つ異議なく対価を受領しているのであるからこのことによつて同人は栄太郎が同人に代つてした対価の受領行為を承認したものと解するのが相当であり、この承認によつて右買収処分の瑕疵は治癒され、買収処分は完全に有効となつていると言わねばならないから、これが無効であるとする原告の主張は理由がない。

(四)  原告は、本件不動産中別紙第一、二目録記載の農地の部分の買収計画書には根拠条文の記載がないから、右計画も、これに基く買収処分も無効であると主張するが、自作農創設特別措置法第六条第一、二項は、農地買収計画樹立に当つて買収すべき農地、買収の時期及び対価を定めることを要求しているのみであり買収の根拠条文を明示することを要求していないから、買収計画書にその記載がないとしても、買収計画及び買収処分の効力にはいさゝかも影がないものといわなければならない。従つて原告の右主張自体理由がない。

第三、以上の次第であるから原告の本訴請求は別紙第三目録記載(一)の山林につきなされた買収処分及び同目録記載(二)ないし(四)の山林につきなされた買収処分の無効確認を求める限度で理由があるからこれを認容しその余の部分の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用として主文のとおり判決する。

(裁判官 新妻太郎 桝田文郎 菊池信男)

第一、第二目録〈省略〉

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